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親であるということ―本能と理性のはざま

2008-05-27 22:35

突然ですが。
鴫野の父親が死んだそうです。
もとい、死んでいたそうです。1年前に。


鴫野はずっと父親を穢らわしく思ってきました。その男の血を引く自分も、同時に嫌でした。あの男は正真正銘のカスだと思っていましたが、それもただのカスではなく、最強のカスであることが判明したわけです。

以下、ちょっとした吐き出しなんですけれど。
何分父親への悪口しか書いておりませんので、世の男性の皆様にとってはいささか不快な内容かもしれません。
読まれて気分を害されても責任は負えません。一応、注意書きです。や~ん、男の人に酷いこと言う人なんかキラ~イ、って思われる方は即刻リターンバックプリーズ。それから読んだ後にお説教するのも、ご遠慮くださいませ。



さて。
一口にカスと申しましても、カスにもイロイロあるわけです。
DV、ギャンブル、浮気…。
鴫野の父親…なんかそんな言葉使いたくないので「男」としますが、あの男はそういう意味ではまだましだったのかもしれません。男は酷いマザコンでした。鴫野の母親はそんな男に愛想を尽かし、別れました。
しばらくの別居状態を経て離婚を切り出した鴫野の母親に、男は「離婚はしたくない」と言いました。
嫌だと言うものだから、鴫野の母親は家裁に調停を申し立てました。
母親は1人で、家裁に行きました。男は父母同伴で来ました。最初は人を介して話をしていたのですが、鴫野の母親はかなりの合理主義なので「っていうか、面と向かって話せばええやろ!」と思いましたが、男は嫌だと言いました。
話ができなければ離婚は出来ません。男は「離婚は嫌だ。話し合いも嫌だ。一緒に住んでいなくていい、今のままがいい」と言いました。意味が分かりません。さらに「ボクどうしたらいいのかわかんない」とも言いました。情けない野郎です。鴫野の母親はブチギレて、裁判に訴えるぜ!と言いました。すると漸く、離婚調停は成立しました。

一事が万事、そんな調子だったといいます。
1人では何も決められない男。全てを自分の母親に委ね、妻子よりも自分の母親を選んだ男です。ザ・キング・オブ・マザコンです。
しかもマザコン野郎はそれだけにとどまらず、養育費の支払いを拒否してそのまま踏み倒しました。父親の風上にも置けません。父親としての責務を果たさなかったあの男を、鴫野は20年間…いえ、物心ついてからですのでまあよくて10年間くらいは穢らわしく思ってきました。そしてここ6、7年くらいは、そんな男のDNAを受け継いだ自分自身をも呪ってきました。


男は3年くらい前に、男と鴫野の母親の共通の友人に、自分が癌であり余命2年であることを告げました(余命2年の癌ってどんな癌でしょう、少なくとも末期癌ではないわな…と、鴫野はそれがものすご~く気になるのですが、それは分かりません。ぎゃふん!)
そして先日、その「共通の友人」宅に、男の家から一周忌を迎えたとの通知が来たそうです。
で、友人が鴫野の母親にそれを教えたのだそうです。

鴫野の家は最近引っ越したので、男が鴫野の母親の居場所を知らないのは当然です。
しかし鴫野の母親の両親…つまり鴫野の祖父母の住所はずっと変わっていませんし、先方もそれを知っているはずでした。
しかし、祖父母宅にもそのような通知は来ませんでした。

鴫野は娘です。かなり嫌というか屈辱ですが、あの男の血を引いています。当然、遺産相続の権利がありますので連絡はすべきです。
まあ男の両親が健在である今、男が死んだからといって男が財産をなしたわけでなし(財産をなせるような甲斐性なんてないわけだし)、男の親の遺産も関係ないし、相続するものは何もないのだから連絡の必要はないと向こうは思っているのかもしれませんが、それにしたって礼儀知らずにもほどがあります。

しかし、それはただの礼儀知らずかと、鴫野は思ったのです。


鴫野は娘です。
たとえ別れた妻との間にできた子であっても、ヤツの植えた種であります。
自分で植えた種のことすら忘れて、勝手に死んでいった男はシマリスか!と鴫野は思うわけですが、まあ要するに娘のことなんて思い出しもせずに死んでいったわけです。これはむかつきます。
もし死ぬ前に娘のことを思い出しでもしたら、せめてコンタクトのひとつでもとるはずでしょう。しかし、それをとらなかったのです。

大体、男なんてものは無責任なものです。
女は子ができた瞬間に母になる、しかし男は育てる過程で父になるとはよく言ったものです。
「育てる過程」を得なかった男は、そのまま父にならずに死んだのでしょう。
そんな人間のDNAを、私は確かに受け継ぎました。何のために?
男は子孫を残しましたが、それはただの野生動物と変わりないのです。
むしろ無責任さは雄の本能だと鴫野は思います。

野生動物(哺乳類)を見て御覧なさい。
子を育てるのは、ほとんど母親です。
父親は基本的に種を植え付けたらそれでおしまいです。そして自分はより多くの子孫を残すべく、他の雌に新たな種を植えるのです。
野生では、雄とは無責任なものであり、むしろ子のことなんて考えずに新しい雌のことでも考えてる雄のほうが立派なのです。
そうやって、雄は進化してきました。
だから人間の雄の浮気も、あれはひとつでも多く自分の遺伝子を残すための本能であり、それは致し方ないと鴫野は思います。

でも、本能だからって、そこで許すかどうかは別問題なのです。
人間は本能とは別に、理性を持っています。
本能のままに行動する人間がいるとすれば、それは「ヒトとして」問題です。
理性で本能をどれだけ抑えられるか。それが、ヒトをヒトたらしめているのだと思います。

しかしあの男は違いました。
本能のままに子を忘れ、その生涯を終えました。
ヒトの世界に子をなすと生まれてくる責任も、愛情も、何も考えずに勝手に死んでいきました。
野生動物と同じか、それ以下です。
そして鴫野はそんな男の血を引いたのです。
自分を呪わずして誰を呪う?
そんなカスが父親なのだと、鴫野は思いたくないのですが、戸籍でも生物学的にでも、あの男が鴫野の父親であることに変わりはないのです。


残念ながら、世の中にはカス男が多いそうです。
養育費も、9割の男性が支払いを踏み倒すのだそうです。
鴫野の母親は、それが現実なのだから仕方ないと言いました。仕方ないのかもしれません。けれど、鴫野の感情は、それを理解し、納得できないのです。自分だけが不幸面をするのは、鴫野の単なる甘えなのでしょう。そうやって不幸を背負っている顔をすれば楽だからです。私は、楽になるために誇りを捨てたくはありません。不幸面をしたくはないし、三文小説染みた「父親が憎い」なんて言葉は吐きたくないのです。

ただ、今だけ甘えが許されるのなら。

滞った養育費の支払いを要求し、父親としての責務を果たさせたかったと思います。
金の問題というよりは、自分が本能にしたがってしか生きることの出来なかった男のカスから生まれたと思いたくないからかもしれません。それは鴫野にとって、ひとつのけじめでした。幾度となく顔を知らないあの男に、「責任を取れ」と迫る自分を夢想しました。
その機会は永遠になくなりました。
鴫野の母親はそれを申し訳ないと言います。けれど、母親の所為じゃありません。
男と、男の両親の問題です。


男は自分の母親に甘え、父親であることよりも息子であることを選びました。
それは最後の最後まで変わりませんでした。

だから腹が立つのです。
そして無性に、虚しくなります。



この苛立ちをどう処理すればいいのかが分からない。
だから余計に苛立って、涙が出そうになります。
死んだことが哀しいというよりは、ただ、情けなくて、悔しいです。

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HN:
鴫野
性別:
女性
職業:
学生
趣味:
映画鑑賞、読書、落書き
自己紹介:
白い巨塔の財前先生を追いかけ続ける学生。田宮二郎様ラヴ。そんなわけで、割と古い映画が好きです。時々落書きしています。カテキョのアルバイトをしています。

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