身を焦がすほどの恋を、その人はしたと言った。愛された女性は、彼が滅びることよりもと、死を選んだ。そして、その女性の存在が、彼の中に刻み込まれ、彼の人生のひとつの節目をつくった。
どんなことがあっても、相手の女性を不幸にしてはいけないと彼は言った。彼の誠実さ。責任感の強さ。女性の記憶。私は、そんなものを感じとる。彼の妻は知っていたのかという邪推は、あまりにどうでもいいと思う。
私は彼が好きだ。彼が私の人生を変えた。それを彼に押し付けるつもりはないし、ひとりでひっそりと慕っていたい。それで十分だ。私にも死の誘惑はあったが、やはりそれを乗り越えた先に、私の人生は大きく開けている気がする。
私は、彼に共鳴する。
彼は人生の厳しさを知っていた。私もまた、知っているつもりだ。研究者として生きることの危うさ。考える、「駄目だったとき」の就職。いろいろ気を回すけれども、私は私の人生にしっかりと根を張ろうと思う。
5年以上前から志していた精神医学を極めることで、ほんの少しでも彼と近づけるかもしれない、近づきたいと思うのは、一介のファンの思い上がりだろうか。
[0回]
PR